NHKドラマ『八つ墓村』の概要や感想、あらすじと登場人物相関図(ネタバレあり)です。横溝正史が生み出したミステリーの名作『八つ墓村』。これまでにも映画やドラマで幾度となく映像化されており、NHKのスーパープレミアムドラマでも制作されました。金田一耕助役に吉岡秀隆さん、主人公・井川辰弥役に村上虹郎さん、そして、森美也子役に真木よう子さんが迎えられ、岡山県でのオールロケを敢行して作られたそうです。
概要
物語の根底に流れるのは、戦国時代に村人によって惨殺された八人の落武者たちの祟り伝説と、大正時代に田治見要蔵が起こした三十二人殺しという痛ましい過去の記憶です。天涯孤独の青年である辰弥が田治見家の跡取りとして村にやってきたことを引き金に、周囲の関係者が次々と毒殺されていく展開は、まさにサスペンスミステリーです。今回の吉岡秀隆版『八つ墓村』が何より際立っているのは、物語の軸に「愛」という強いテーマを据えている点です。過去の映画作品、特に1977年の野村芳太郎監督版などが提示したホラー映画的なトラウマ級の恐怖感やオカルト的な雰囲気をあえて抑えめにして、登場人物たちが抱えるドロドロとした愛憎や執念、そして人間としての業を描いているといえるでしょう。
相関図
八つ墓村に登場する主要人物の相関図です。犯人や被害者などもわかるようになっています。

あらすじ(ネタバレ)
西屋の未亡人森美也子(真木よう子)は、田治見家の遺産を里村慎太郎に相続させるため、相続人を殺害します。しかし、相続人を殺害するだけでは、遺産相続という動機が明確になってしまいます。そこで、見立て殺人で次々と関係者を殺し、動機をわかりにくくしました。
動機
美也子と里村は恋人同士でした。美也子は里村に田治見家の遺産を相続させるため、連続見立て殺人を起こします。
殺害方法
殺害方法を考え出した人物と、実行した人物が異なります。
- 久野医師の計画:連続見立て殺人を計画したのは久野医師でした。久野は、新居医師を殺害するため、対となる存在の傍らを殺害する計画を立てます
- 美也子の犯行:久野医師の計画を知った美也子は、計画通りに連続殺人を実行します
- 久野医師は、対となるふたりを紙切れに書き記していました。しかし、この紙を入れたバッグを盗み癖のある濃茶の尼に盗まれてしまいます。濃茶の尼は、盗んだバッグを捨て、その捨てられたバッグを美也子が拾います。こうして美也子は、久野の紙切れを手に入れ、見立て殺人を知ります
- 濃茶の尼の死:美也子が手に入れた紙切れは、再び、濃茶の尼に盗まれたため、美也子は濃茶の尼を殺害。そして、盗まれた紙切れを取り返そうとしますが、濃茶の尼が下着の中に隠していたため、見つけることができませんでした
感想
要蔵の大虐殺、吉岡秀隆さんが演じる金田一耕助など、印象に残る「八つ墓村」でした。真木よう子さん演じる美也子が魅せた狂気と切なさが同居する演技はインパクトがありました。愛する男のために仕組んだ凄惨な連続殺人、そして破傷風に侵されながらも自分の惨めさをあざ笑い、最後は辰弥に冷酷な言葉を言い残して去っていく姿は、恐しくも哀しい圧巻の表現でした。また、要蔵の虐待に耐え続けた母の愛、実の父親である英泉の静かな愛、辰弥に寄り添おうとする春代や典子の愛など、さまざまな愛の形が複雑に交錯していきます。演出面でも大きな挑戦が見られました。鍾乳洞内での緊迫した追走劇にヴィヴァルディの「冬」を合わせ、犯人の告白や終盤のシーンにはサイモン&ガーファンクルの「スカボローフェア」やイーグルスの「デスペラード」といった洋楽を配置するという斬新なBGM演出は、和風の閉鎖的な村社会という舞台設定と奇跡的な融合を見せ、唯一無二の情感を生み出しています。
吉岡秀隆さん演じる金田一耕助は、事件を力づくで解決する圧倒的なヒーローとしてではなく、悲劇に翻弄される人々の苦しみや愛憎に静かに寄り添う一人の観察者として描かれています。金田一の出番自体は控えめでありながらも、彼が発する温かみと哀愁を帯びた佇まいが、作品全体に深みを与えていました。「もし……と後悔するから人は呪われるのです。前を向きなさい」という作中の言葉は、過酷な運命を生き抜いた登場人物たちだけでなく、観ている私たちの心にも深く響きます。
映画版のような純粋な恐怖を求めていた視聴者からはおどろおどろしさの不足を指摘する声もありましたが、原作の入り組んだ要素をコンパクトに整理し、人間の心情に光を当てた本作は、ミステリーに慣れ親しんだ視聴者にとっても新たな発見にあふれた名作となっています。愛は人を幸せにもし、同時に恐ろしい不幸にも突き落とす――そんな人間の普遍的なドラマを美しい映像と共に描き切った吉岡秀隆版『八つ墓村』は、金田一耕助シリーズの歴史に新たな1ページを刻んだのかもしれません。
